Monthly Column マンスリーコラム

2025年2月号

キャリアは「偶然」と「選択」の積み重ね〜私のキャリアの変遷から

はじめに:過去の私が知りたかったこと

あなたは将来どうなりたいのですか

この問いに対し明確な答えを持つ人は、一体どれくらいいるでしょうか?
実は、私もその答えを持っていない一人でした。

私は過去に何度も転職を繰り返してきました。最初の仕事は地方公務員でしたが、それはじっくりと計画した上での選択ではなく、「親への反発」から偶然選んだ仕事でした。

しかし、その選択は私に大きな悩みと少なからずの学びをもたらしました。その後、転職を繰り返した私は、自分のキャリアの悩みからキャリアコンサルタント資格を取得しました。

今、キャリアコンサルタントとして働く私は、当時の自分に伝えたいことがあります。そして、当時の私と同じようにキャリアで悩む多くの人に伝えたいことがあります。

本記事では、私のキャリアの変遷を振り返りながら、皆さんのキャリア形成のヒントをお伝えしたいと思います。

2. キャリアのスタート 〜「親への反発」とキャリア・アンカー理論

私のキャリアのスタートは県の地方公務員でした。本当は4年制の大学に進学したかったのですが、父は「女は短大くらいでいい」と私の進学に反対しました。令和の今ではあまり考えられないかもしれませんが、私が高校を卒業した昭和58年頃は、まだそのような価値観を持つ親も多かったのです。

私は自分の希望が通らず、ただ反発するばかりでした。奨学金を申し込むことや、通信大学や夜学で学ぶことも検討せず、親元から離れ自立するために公務員試験を受け、地方公務員になりました。

一方で、私の弟には一浪を許してまで大学進学をさせたこともあり、当時の私は父に対し「女性差別だ」と大いに反発しました。そのことで、私は女性差別的な世の中の仕組みに反発心を募らせることになり、さらには「男女関係なく活躍できる職場」を求める気持ちが強くなっていきました。

意に沿わない選択をしたことで、自分の価値観が強く意識された出来事でした。私のキャリアのスタートは、「キャリア・アンカー理論」の中の価値観「自律・独立」を指向して始まったように思います。

キャリア・アンカー理論(シャイン)

アメリカの心理学者で、マサチューセッツ工科大学で組織心理学の教授を務めたエドガー・シャインは、人がキャリアを選択する際に譲れない価値観や欲求(キャリア・アンカー)があることを、キャリア・アンカー理論として説きました。

キャリア・アンカーは、以下の8つのカテゴリーに分類されます。

  1. 技術的・機能的コンピタンス:自分の能力を発揮したい
  2. 管理能力 :リーダーシップを発揮したい
  3. 自律・独立 :自由な働き方をしたい
  4. 安定 :安定した生活を送りたい
  5. 起業家精神 :自分のビジネスをしたい
  6. 奉仕・社会貢献:社会に貢献したい
  7. 純粋な挑戦 :困難な目標に挑戦したい
  8. ライフスタイル:仕事とプライベートのバランスを取りたい

この理論では、自分のキャリア・アンカーを理解することで、後悔のないキャリア選択ができると考えられています。

3. 偶然と必然の間で 〜「偶然の出会い」と計画的偶発性理論

父への反発から公務員として働き始めたものの、私はすぐに「この仕事は私に合わない」と感じました。私に割り当てられた仕事の大半は、男性職員の補助的な業務ばかりでした。女性の先輩職員が役職についている事例も少なく、目指すべき女性のロールモデルがいないと感じ、男女関係なく活躍できる職場ではないと思ったのです。

一方で、大卒上級職で入庁した複数の男性職員もいました。彼らの聡明さや自由闊達さに私はとても憧れました。彼らのキャリアに憧れ、そして話に出てくる「キャンパスライフ」への憧れが募りました。

「彼らと同じように大学進学してから入庁すればよかったのか?」
「このままこの仕事を続けていて良いのだろうか?」

何度も退職を考えました。

大学進学を目指して退職するか、いっそ海外に飛び出すかとも考えました。当時流行り始めていたワーキングホリデーに憧れ英会話スクールに通ったり、中国語を習ったり、自己啓発本を積み上げたりしました。しかし、これらは「自分を探す」ための手段ではなく、迷いからくる衝動的な行動でした。

そんなある日、偶然参加したとある交流会で一人の女性に出会いました。その人は営業職をしていて、その後独立起業を果たした人でした。不平不満だらけの私を諭し「営業職をやってみればあなたも成長できる」と、女性でも活躍できる場があることを示してくれました。私は心底ワクワクしたことを覚えています。

その人の言葉を頼りに私は役所を退職し、営業職として転職しました。無謀ではありましたが、新しい世界を開いたのは、「計画的偶発性理論」で言うところの「好奇心」と「柔軟性」、そして「楽観性」のスキルが私の中にあったからかもしれません。

計画的偶発性理論(クランボルツ)

アメリカの教育心理学者で、キャリア論を専門としていたジョン・D・クランボルツは、キャリアは計画的に作られるものではなく、予期せぬ出来事や偶然の出会いによって形成されると唱えました。

この理論では、偶然の出来事をチャンスに変えるために、以下の5つのスキルが重要だとされています。

  1. 好奇心 (Curiosity) :新しいことや未知なことに興味を持つこと。
  2. 持続性 (Persistence) :目標に向かって粘り強く努力すること。
  3. 柔軟性 (Flexibility) :状況や変化に合わせて考え方や行動を柔軟に変えること。
  4. 楽観性 (Optimism) :物事を前向きに捉え、困難な状況でも希望を持つこと。
  5. 冒険心 (Risk-taking) :失敗を恐れず、新しいことに挑戦する勇気を持つこと。

クランボルツの理論は変化の激しい現代社会において、キャリア形成の新たな視点を提供しています。

4. 経験しないと学べない 〜経験学習モデル

公務員を辞めた後、私は営業職に転職し、その後も百貨店の外商員、証券会社の営業員、地方銀行の渉外係とさまざまな業種を経験しました。そして最終的に個人事業主として独立しました。

営業職に就いてみて初めて、営業は単に話がうまいだけでは通用しないことを学びました。例えば、証券会社時代のある顧客から言われたことがあります。「いいことしか言わない営業トークだけの営業マンは信用しない。リスクも誠実に説明してくれてこそ信用できる」と。私は自分の提供したいモノやサービスの良さやメリットだけを伝えるばかりで、相手の求めるものをじっくりと聴き出し提供する営業姿勢を、それまで持ち合わせていませんでした。

独立後も多くの学びがありました。女性向けの独立起業セミナーを開催したり、キャリアコンサルタントやファイナンシャル・プランナーの資格を活かして講師業をしたりと、さまざまな試みをしました。しかし集客に苦労し、失敗が続きました。集客にはマーケティングやセールス、顧客心理の理解などの、顧客を獲得し信頼関係を築くためのスキルが必要ですが、私に集客スキルが不足していたのが原因だと思います。

高齢者向けの脳トレ教室のフランチャイズ契約を結び、資金を投じて集客に力を入れたこともありました。その延長で高齢者向けの漫談講演も行いました。これらの試みは順調に進んでいましたが、コロナ禍によって再び資金的に厳しい状況に直面しました。

このような試行錯誤を繰り返すうちに、未経験の業界にも挑戦するようになりました。追い詰められて、これまでのこだわりを捨てたのが功を奏したのでしょう。

現在はキャリアコンサルタントや講師の仕事と並行して、再エネ業界で交渉の仕事も手がけています。交渉の仕事は、これまでの経験が十二分に発揮できるやりがいのある仕事だと感じています。営業職や事務職、金融業界での経験、人の話を聞くスキルなど、これまでのすべての経験が活かされていることに驚きを感じます。

振り返ってみると、私が人から求められ収入を得られるのは、話を聴いてコンサルティングをしたり、交渉したりする仕事でした。私は「人と交流し、双方向で作り上げる仕事」であれば、社会から求められていると実感し、やりがいを感じることができるのだと、経験から学びました。

経験学習モデル(コルブ)

アメリカの教育心理学者のデイヴィッド・コルブが提唱した経験学習モデルは、人は「経験」から学び、その学びを成長につなげていくとする理論です。このモデルは、以下の4つのステップから成り立っています。

  1. 具体的体験. :実際に経験することで、自ら考え、動く。
  2. 内省的観察 :経験したことを多角的な視点から振り返る。
  3. 抽象的概念化:経験から得た気づきを理論化し、他の場面に応用できるようにする。
  4. 能動的実験 :学んだことを活かし、実際の場面で試す。

このサイクルを繰り返すことで学びが深まり、キャリアの成長につながると言われています。

5. キャリアは自分自身で創るもの

私はこれまでの経験を通して、キャリアは偶然と選択の積み重ねによって創られることを学びました。また、経験を積むことで人は成長し、より自分らしいキャリアを築いていくものだとも実感しました。

あなたは将来どうなりたいのですか?

この問いかけに対する答えは、私にもずっとわからないままです。

しかし、目の前に訪れた偶然を受け入れ、悩み迷いつつも選び、少しずつ前に進んでいく。その過程そのものが、自分のキャリアを作るプロセスなのだと感じています。

その道がどこへ向かっているのかは、最後までわからないかもしれません。

でも、それこそが「わたし」の、そして「あなた自身」の「キャリアストーリー」なのです。

あなたのキャリアが
あなたにとって最高の物語となりますように

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大久保名美

人材活用と地域資源活用の分野でマルチキャリアで活動しています。
国家資格キャリアコンサルタント
AFPファイナンシャル・プランナー
合同会社福々舎 代表